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Ammagamma V13を登って

中村2019/10/08

実は2年前から計画していたオーストラリアツアー。現地に住むクライミングの先輩RYOさんが一緒に登ることを快諾してくれて実現した。2018年はタイミングが合わず2度断念し、今年になって何とかお互いの時間を調整。30日間のテント生活ツアー。渡豪する前から目標にしていたのは「とにかく全てを楽しむ」こと。はじめましての土地で、初めてのテント生活、毎日クライミング。想像しただけで楽しいイメージしかなかった。

はじめましてアンマガンマ

8月20日、メルボルンまで香港経由で18時間。心配だった香港デモも何とか無事にクリア。初日はスーパーマーケットでカンガルー肉を買い込み、「現地の食を楽しむ」という目的のひとつを果たした。

初日は砂岩慣らし。2日目にアンマガンマのあるエリアへ。事前にキツいと聞いていたアプローチは確かに急坂で長くて息が切れた。ただ、国内の岩場はひとりダブルマットが基本行動になっていたのでトレーニングと割り切り楽しめた。

ついにアンマガンマとご対面のとき。この課題は僕自身がいつ存在を知ったのか忘れるほど、かなり前から認識していた。「世界一美しいライン」と言われていて、オーストラリアへ来ることがあればトライしてみたいなと思っていた。ただしグレードはV13。そのグレードを登った事はなく、未知の領域すぎて目標とはとても言えなかった。

写真や動画を見過ぎたのか、岩を目の当たりにしたときそれほど感動しなかった。ただこの感覚はトライを重ねるごとに変わっていくこととなる。

まずはスタンドスタートのアンマガンマV8。得意のトーフックを多用する内容。ハイステップで乗り込みプッシュするマントルがなかなか怖そうだ。入念なオブザベをしてからファーストトライ。するとまさかのフラッシュ。「これはひょっとしたら、、」という気持ちが込み上げる。

最大の核心と言われる下部のランジムーブにすぐさまトライ。始めは飛び出すことすら出来なかったが、何度かやっているうちに遠いホールドに手が届くようになった。感覚は悪くない、それが初日の印象だった。

残り6日、トライ継続か否か

せっかく30日もあるのだから、もちろんたくさんの岩を登りたい。2,3日はV10くらいを中心にかっこいい岩を登りつつ、1,2日レストを挟んでアンマガンマにトライするというループ。初日以降、合計4日間アンマガンマにトライしたが、核心のランジは一度も止められなかった。止まる気配は何となくあるが、止められる確信は全くなかったのだ。9月12日、RYOさんと分かれてこの日からは一人行動。ツアー残り6日、体力的に登れるのは3,4日。この時点で、「止まらない一手」に残りを捧げることに迷いがあった。アンマガンマから逃げたい気持ちがかなりあった。当初のツアー目標は「全てを楽しむ」こと。他にも手をつけていた登りたい岩はたくさんあって、それらがチラつく。

しかし、オーストラリアに来たからには、結果がどうであれ自分に向き合ってツアーを終えたい気持ちが勝った。登れても登れなくても、楽しかったと思えるツアーにしたい。残りも「止まらない一手」にかけることにした。

地平線

9月14日。とにかくランジを止めるためにムーブを試行錯誤。指はかかるが振られて落ちる、を繰り返す。半日ほど飛び続け、同じムーブだけをやるので身体の一部への負担が大きい。半ば諦めかけて、ダメ元で最初に選択肢から外したフットホールドを使ってみた。パワーを出したつもりもなく、軽く飛び出し手を伸ばした。すると一回で止まってしまったのだ。なんてことだ!ゼロに限りなく近かった可能性が一気に上昇。止められることがわかれば、あとはスタートからトライするのみ。しかしこの日は二度とランジは止められなかった。残り4日。身体はかなり疲労していた。天候のことも考え、2日間レストして最終2日にかけることに。

9月17日。この日登らなければ明日が最後。そんな、メンタル的にどこか逃げている考えのままトライ開始。1トライ目、ランジで指が軽くかかっただけで普通に落ちる。2トライ目、ランジを止めた!と思ったが、振られてそのまま落ちた。この時点で登れると確信した。3トライ目、指が軽くかかっただけで普通に落ちた。さっき確信したばかりの心が不安になる。ちょうどお昼ご飯の時間になったので気分転換に手作りのサンドイッチを食べて昼寝。

15時ごろに4トライ目、スタートから初めてランジを止めた!やった、登れる、そう考えながら落ち着いてムーブをこなす。しかし中間部のポケットホールドの収まりが悪く持ち直そうとして落ちた。あぁ、今日はダメかもしれない。夕方に差し掛かると岩が日陰になり急に寒さを感じる。1時間ほどレストしてこの日の最終トライ。

登れた。上部で足が外れて少し焦ったが、落ち着いて立て直した。

まさか今の自分に登れると思っていなかった岩が登れた。逃げなくて良かった。去年の春以来の、言葉にし難い気持ち。奇妙で巨大な石ころの一面に、絶妙に散りばめられた窪みや穴。岩の上に立ち、広がる景色に目を向ける。ずっと向こうまで続く地平線。まさに、僕の人生の中で最も美しい時間となった。ありがとう、アンマガンマ。

中村2019/10/08

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