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クライマーとして記憶に残るボルダー課題との出会い

中村2018/04/18

クライマーとして記憶に残るボルダー課題との出会い

今から2年前、「かっこいい3段の課題は?」の問いに対する彼の答えがこの課題だった。岩のスケール、細かいクラック沿いの素直なライン、そして何と言っても核心ムーブが上部でのランジ。岩を一目見たとき「これだ」と心がときめいた。それからずっと、登りたい課題リストの最上位だった。

出来ないことをやり続ける

足の入れ替えなど含めると、核心まで約18手(ムーブ)。初段のムーブのあとに2段のランジと言った内容。初めてトライしたときは下部のムーブすら出来なかった。もちろん、核心のランジなどその体勢にもなれない。それでも機会があれば、笠置山を訪れては出来ないムーブを重ねた。

初めの1年間で3,4日ほどトライし、下部は2分割で出来るようになったが、全く繋げられない。ちょうどその頃にグッぼるへ勤務し始め、単独で恵那入りしてはトライするものの、ただ繋がらないムーブの練習に留まった。

常に自分に向き合い続ける

出来ないムーブをひたすら続けていると、もちろん落ち込むときもある。でも、同じ岩の前に10時間以上たたずみ独り言を言いながら最善策を探るのも悪くない。どこかの歌詞に出てきそうだけど、小鳥のさえずりとか小川のせせらぎとかが聴こえてホントに心地いい。心が浄化される気がして。ただし夜になると獣の気配がしてpamoブラシ片手に戦闘態勢で下山することもあった。

昨年のシーズンオフは時間を作ってはジムで出来る限り登り込み、キャンパスボードで指を鍛えた。前腕や広背筋に頼り切った登りを改善すべく、足先からのキネティックチェーンを意識してトレーニングした。

シーズンイン直前の昨年9月末、パート練習だが初めてランジが止まった。その後1カ月間のフランスツアーでブランクがあり、年末の岩場シーズンを迎えた。しかし一向にムーブは繋げられず、ランジも止められなくなった。気を紛らわせるために行った別の岩場で足を負傷し、2カ月は満足にクライミングが出来なかった。ただ、その間も指の強化やTRXによる体幹と動作トレーニングをやり続けた。

やり続けたその先にあるもの

雪の溶けた3月にトライを再開した。負傷した足は完治したが、今の自分が半年前より成長しているのかがわからなかった。パート練習でランジをしてみると、やはり止められない。ダメかと心が折れそうになったが、「とにかく挑戦し続ける」「出来る」と思い込み、トライを続けた。ホールディングの見直しや足加重ポイントの微妙な修正やランジ時の連動性意識を再確認。ランジパートまでは何とか繋げられるようになった。確率はかなり低いがランジを止めることもできた。あとはムーブを自動化し、いかにランジパートに余力を残すかだった。

それから10日後の3月下旬、登るなら今日しかないと決め笠置山へ。いつも通りエルの岩で丁寧にアップをして岩へ。ランジと下部ムーブを少し確認し、いざ繋げトライへ。正午過ぎの1トライ目、ランジ先のホールドに触れられた。もう登れると核心し30分ほどレストし2トライ目、ランジ先のホールドを保持するも、右手のピンチが外れてしまい回転に耐えきれなかった。そこから2時間ほどレストし数トライしたが、下部のミスで落ちてしまう。しかしこの日は焦りがなかった。日が暮れてコンディションはよくなり、ライトを点けてトライを続けた。

19時45分頃、その日の10トライ目くらいか、ランジを止めた。ヘッドライトの明かりのみで手探りでトップアウトした。岩の上に立つと同時に言葉にできない感情が込み上げた。今もクライミングを続けられている、成長できている、生きていることを実感できた瞬間だった。嬉しかった。

ただかっこいいと言う理由と、その時の目標グレードだからと取り付いた課題。それに囚われ続けた2年間。だけど、だからこそ自分に向き合えた時間。登れてよかった。今はとてつもない解放感と同時に、次は何を登ろうかとワクワクしている。

中村2018/04/18

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